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七人のサムライと百人の野武士。シニカルに前向きな奴ら


昨夜の"iモードパーティ二次会"は予想通り大盛り上がり大会で、帰宅したのは午前6時。

しかし、みんな年を取ったのか、昔にくらべると朝まで頑張る参加者は少なめでした。




 「俺たちが作ってきた歴史を大事にしよう」




誰ともなしにそう言いだし、自主的にパーティが開かれる。

ケータイメールの転送だけで参加者を集めて、数日で100人も集まってくる。




しかも主催しているのは、いまや転職してドコモの某競合企業の舵取りをするKさん。




それでもみんなiモードが大好きで、というか、もう大好きという言葉が当てはまらないくらい好きで、みんなにとってiモードが本当に大切なものだから、ずっとずっと守っていきたいと思っている。そんな集まり。




 「どこかの代理店の営業マンが"俺ケータイに命かけてますから"って言うのは、嘘っぽいし、見てて痛々しいよね。ここに来てる連中は、誰一人としてそんなことは言わないと思う」




 「"ケータイ?まー仕事だからね"とシニカルに嗤うよ」




 「おれたちにとってiモードは家族なんだよ。家族に面と向かって"愛してる"なんて言うのはアメリカ人だけ。俺はもちろん仕事だからiモードをやってる。愛してるなんてガラにもなくて恥ずかしくて言えない」




 「けど、iモードはとっても大切なものなんだ。俺たちにとって」




 「メジャーリーガーにバットをどれくらい愛しているかって聞いたら、"バットはただの道具だ"と言うだろうね。おれたちにとってのケータイも同じ」






黎明期の有名なサイトを"実質的に"創った、プロデューサーだけが集まって、自分たちにとって大切なものに思いを馳せる。




 「波伝説が2万人で自慢してた時代が懐かしいな」




 「釣りゲームも5万人で大騒ぎだったよ」




 「某社の株なら売るほど持ってるよ。紙クズ同然だけど」




 「夏野さんと松永さんが、へんてこな電話を売り込みに来てさあ」




 「某端末の在庫処分には苦労したよ」




本当を言うと、本来、社会階層が違う人たちが集まっている。

キャリア、起業家、上場企業重役、クリエイター、販売店、流通。




収入も違えば価値観も違う。本来は商売敵、同じ社内でもライバル。




けれどもとにかく彼らは前向き。




かといって熱病にうかされたような、お題目をもごもご唱えるような、そんなヤバイ前向きさではなくて、もっとずっとシニカルな前向きさ。スマートかつクレバーでなければ戦えない。かといって驕らない。みんな根拠のない自信がある。涙と汗とで掴んできたささやかな成功がある。




 「だいたい、おまえがあんな端末を出したせいで、俺たちがどれだけ苦労したと思ってんだ」




 「だけどいい電話だったろ?」




 「そりゃあな」




たった7人で始まったiモード開発の歴史。リクルートからドコモへ"とらば〜ゆ"した松永真理さんは「7人のサムライ」と呼んだ。






iモード事件 (角川文庫)

iモード事件 (角川文庫)

  • 作者: 松永 真理
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2001/07
  • メディア: 文庫





かつてサムライの末席だった男が、いまは実質的な戦略を仕切っている。




本来、キャリアとコンテンツプロバイダはお互いの利害を求めて駆け引きをする対象。

彼らがサムライならば、僕らコンテンツプロバイダは野武士だった。




実際、ケータイコンテンツのパイオニアとして知られるサイバードの求人広告には長らく「脳みその詰まった野武士の集団です」と書かれていた。




あらゆる業界から集まったエキスパート。新規事業に投入されるのは常に才能を持った若手だった。そうでない場合もあったかもしれないが、レースには残れなかった。




実は、iモードのサイトを作るのは、技術でも資本でもない、とんでもなく高い壁が存在した。




それは「コンテンツ開拓全国会議」




ドコモ社内で毎月開かれるイベントで、全国のドコモのコンテンツ担当者が80人集まり、全員の承諾を得ないとコンテンツプロバイダの企画は承認されない。




企画が承認されないということは、商売がまるでできないということ。




我々コンテンツプロバイダにとっては死活問題。しかも採択率は1〜5%と言われ、あるプロバイダなどは




 「20くらいの企画を出して、ひとつも通らなかったときは愕然とした」




と当時を振り返る。

企画といっても、お手軽なものではない。

コンテンツ企画は、ふつう100ページ程度の膨大な資料を要求される。




 「企画書の厚さが採択率を上げるポイント」




という、まことしやかな噂まで流れた。実際、ある時期まではたしかにそうだった。

こんなものは一朝一夕に書くことはできない。




だから、企画書をひとつ創るのに軽く一ヶ月はかかる。それを20本も一気に提出したこと自体も凄まじいが、それが全部拒絶されたら、20人月ぶんの損失である。笑えない。




なぜここまで高い障壁が用意されているか、それはとにかく「エンドユーザを失望感から守る」という崇高な目的があった。




僕は最初、




 「うちのゲームは面白いから、パケ代を払ってくれるユーザが沢山でるはずですよ」




と売り込んだ。




 「そんなことをしたら、ダイヤルQ2の二の舞になってしまうよ」




と真っ向否定された。夏野さんは最初からかなり長期的な視点でコンテンツプラットフォームを捉えていた。並大抵のサラリーマンには出来ない芸当だ。なにしろ彼は本気でそれを信じていた。iモードがいまのように生活の必需品になること、最終的にケータイがお財布になること。10年前は完全に夢物語でしかなかったことを信じていた。




しかも、恐ろしいことに、彼はいまよりもずっとiモードが成功すると信じていたと思う。

1兆円ものケータイ課金市場を創り出しておいて、まだ不満なのだ。それでいて給料は中小企業の社長並みでしかない。これは労働組合が強いからだ。




とある外資系企業のCEOは夏野さんを評してこう言った。




 「You're slave」




野武士は彼の夢に乗って大金を稼いだ。




しかし夏野さん自身が大金を稼いだわけではない。これだけの巨大市場を独創し、旧態依然とした巨大企業にベンチャーのカルチャーを持ち込み、感化し、熟成し、増大させていった。夏野剛という男のスケールの大きさを想像すると、未だに足がすくむ思いだ。




とはいえ、実際、キャリアとCPとの衝突は何度もあった。けれども、その繰り返しのなかで、確実にお互いを認め合い、尊重し合う信頼関係が生まれていった。




 「あいつらにゲームの何がわかるってんだ。おれの企画にケチをつけるなよって思ったよな」




 「でも俺たちだって電話のことはなにひとつ知らなかった」




 「結局、両方正しかったわけだ」




彼らはびっくりするくらい前向きだ。




たとえば、こんな質問をしたことがある。




 「有り得ない話だけど、もし来年からケータイが法律で禁止されて、おれたちの業界がまるごとなくなったらどうする?」




同じ質問を、昔別の既得権益業界でしたことがあったけど、そのときはこうだった。




 「そんなことは有り得ない」




いや、だから有り得ない話をしてるんだってば。




そういう答えが出てきてしまうのは、要するにそんなことは想像したくもないからだ。自分の安心の拠り所が、業界やスペシャリティに依存しているのである。職種にも依るかも知れないが、クリエイターというのは実は驚くほどメディアの制約を受けているのである。




ところが、モバイル業界の古株に同じことを聞くと、みんなが口を揃える。




 「別のメディアを探すか、俺たちが創るか、ま、どうにでもなる」




ケータイで稼ぎつつも執着しない。

野武士、山師、そんな有象無象。魑魅魍魎が集まるから、この業界は面白い。




とにかく前向き。シニカルに前向き。

あんな何も出来ない環境で商売ができたんだから、他のことだって出来るはず、という根拠のない自信が、彼らにそう言わせる。




この業界で職がなくなって本当に困る人は少ない。

転職したり、独立したりする人もユニークだ。




実を言うと初期のモバイルに関わった人間で、金儲けが目的で仕事をしている人は、たぶん一人もいないのだ。




金儲けが最大の目的だったら、そもそもモバイルみたいな小さい市場に参入してこない。

僕らですら、モバイルがここまで拡大するとは信じ切れなかったくらいだ。




9年前、1999年の春、ハドソンの創業者で、プログラマーとしても高名な中本伸一さん(当時常務)と、六本木のラビアンローズの前でこんな会話をしたことを思い出した。




 「中本さん、実は僕、MSの仕事やめようと思うんです」




 「どうすんだ?」




 「僕は大学も出てないし、3Dプログラマとしては三流です。だからやめようと思います」




 「何言ってんだ。お前から3Dをとったら、何も取り柄がないタダの生意気なガキじゃねえか」




 「僕、来週から電話屋になります」




 「デンワぁ?デンワって、モシモシハイハイの、あの電話か?」




 「そうです。携帯電話向けのゲームを創りたいと思います」




 「やめとけ。そんなものが商売になると思ってる馬鹿は、世界でお前くらいだ」




10年前にケータイコンテンツに投資するというのは、これくらい馬鹿げていると思われていたわけで。後は運でしかなかった。


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